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歯の詰め物が取れたら?放置のリスクと正しい対処法・費用を解説

食事を楽しんでいる最中や、ふとした瞬間に口の中で「ガリッ」という異音がして、舌で触れるとぽっかりと穴が開いている。そんな経験をして、背筋が凍るような思いをしたことはありませんか。歯の詰め物が取れたときのあの焦燥感は、何度経験しても慣れるものではありません。痛みがないと、仕事や家事の忙しさを理由についつい「歯の詰め物が取れたまま放置」してしまったり、とりあえずの応急処置として手元にある接着剤でつけようかと考えたりする方もいるかもしれません。
しかし、自己判断での対応は、後々大きな後悔につながることが非常に多いのです。また、万が一「歯の詰め物が取れたものを飲み込んだ」場合や、取れた場所から独特の「歯の詰め物が取れたあとの臭い」がする場合など、不安は尽きないものですよね。さらに、いざ歯医者に行くとなると気になってくるのが「歯の詰め物が取れたときの費用」や治療期間のことではないでしょうか。
- 詰め物が取れた直後に絶対やってはいけないNG行動と正しい保管方法
- 痛みがないからといって放置することで進行する恐ろしいトラブル
- 保険診療と自費診療における具体的な費用の目安と治療の選択肢
- 妊娠中や忙しい時期でも優先して歯科医院を受診すべき医学的な理由
歯の詰め物が取れた直後の正しい対処法

詰め物が取れてしまったとき、まず最初に何をすべきか、そして何をしてはいけないのかを知っているだけで、その歯の寿命は大きく変わります。ここでは、脱離直後の「ゴールデンアワー」とも呼べる重要なタイミングで、皆さんが取るべき具体的なアクションについてお話しします。
接着剤を使い自分で治すのは危険
インターネットで検索をしていると、時折「自分でつけ直しました」といった個人のブログや、海外の歯科用セメントの並行輸入品などを見かけることがあるかもしれません。また、手元にあるアロンアルファなどの瞬間接着剤を見て、「これでくっつければ、とりあえず凌げるのでは?」という悪魔のささやきが聞こえてくることもあるでしょう。しかし、はっきりとお伝えします。自分で接着剤を使って詰め物を戻す行為は、歯科医学的に見て「禁忌中の禁忌」、つまり絶対にやってはいけない行為です。
その理由は大きく分けて3つあります。まず1つ目は、「歯の神経への深刻なダメージ」です。市販の瞬間接着剤は工業用であり、生体親和性(体への優しさ)は全く考慮されていません。これらが硬化する際に出る熱や、化学成分そのものが歯髄(歯の神経)に対して強烈な刺激となり、最悪の場合、神経が壊死してしまうことがあります。元々は詰め物をつけ直すだけで済んだはずの歯が、神経を抜く大掛かりな治療が必要になってしまうのです。
2つ目は、「細菌の封じ込め」です。歯科医院では、接着の際に徹底的な清掃と消毒、そして唾液が入らないような防湿(ぼうしつ)を行います。しかし、家庭でそれを行うのは不可能です。もし自分で接着してしまうと、詰め物の下に無数の細菌や汚れ、唾液を閉じ込めることになります。これは細菌にとって、外敵が入ってこない、かつ栄養豊富な最高の「培養室」を作ってあげるようなもの。外見上はくっついていても、内部では爆発的に虫歯が進行し、気づいたときには歯がドロドロに溶けているという恐ろしい事態を招きます。
ここが危険!
一度強力な瞬間接着剤でつけてしまうと、歯科医院でもそれを外すのが非常に困難になります。結果として、健康な歯を大きく削り取って外さざるを得なくなり、歯の寿命を縮めることになります。
3つ目は「噛み合わせの不調和」です。お口の中はミクロン単位の繊細なバランスで成り立っています。素人の手作業で元の位置に完全に戻すことは不可能で、ほんの少し浮き上がって接着されてしまうでしょう。すると、その歯だけが強く当たる「早期接触」という状態になり、噛むたびに歯や顎に過剰な負担がかかります。これが原因で歯の根の周りに炎症が起きたり(歯根膜炎)、顎関節症を引き起こしたりすることさえあるのです。
痛くない場合も放置は厳禁な理由
「詰め物が取れたけれど、しみることもないし、痛みも全くない。だから、次の休みまで、あるいは時間ができるまで様子を見よう」。そう考えてしまう気持ち、私にも痛いほどわかります。歯医者さんは予約も面倒ですし、できれば行きたくない場所ですよね。しかし、「痛くない」ということこそが、実は危険なサインである可能性があるのです。
まず、痛みがない理由の一つとして、その歯がすでに「神経のない歯(失活歯)」である可能性が高いことが挙げられます。過去に根管治療をして神経を取っている歯は、痛みを感じるセンサーがありません。そのため、詰め物が取れて無防備になった象牙質が細菌にさらされ、再び虫歯(二次カリエス)が進行しても、一切の痛みを発することなく静かに崩壊していきます。これを「サイレントキラー」と呼ぶこともあります。気づいたときには、歯茎から膿が出てきたり、土台となる歯がボロボロに崩れて抜歯しか選択肢がなくなっていたりすることも珍しくありません。
また、神経が残っている歯であっても、慢性的な刺激から身を守るために「第二次象牙質」という防御壁が作られていて一時的に痛みを感じない場合や、単に歯茎が腫れて患部を塞いでいるだけのケースもあります。これらはあくまで「嵐の前の静けさ」であり、病気の進行が止まっているわけではありません。
歯並びへの悪影響も
詰め物が取れてできたスペースを放置すると、隣の歯が倒れ込んできたり、噛み合う相手の歯が伸びてきたりして、歯列全体が歪んでしまうことがあります。これは数週間単位で起こり得ます。いざ治療しようとしたときにはスペースが足りず、矯正治療が必要になるなど、治療の難易度とコストが跳ね上がってしまいます。
飲み込んだ時はどうすればいいか
食事中に詰め物が外れ、そのまま気づかずに、あるいは気づいた瞬間にゴクリと飲み込んでしまった場合、パニックになってしまうかもしれません。ですが、まずは落ち着いてください。歯科用の詰め物(金属やセラミック、レジンなど)は、少量であれば人体に有害な物質が溶け出すことはほとんどなく、多くの場合、2〜3日中に便と一緒に排泄されます。
ただし、注意が必要なケースがいくつかあります。まず、飲み込んだ瞬間に激しくむせたり、咳き込んだりした場合です。この場合、食道ではなく気管に入ってしまった(誤嚥・ごえん)可能性があります。異物が肺に入ると「誤嚥性肺炎」を引き起こすリスクがあるため、もし激しい咳き込みがあった場合は、念のため呼吸器内科などを受診し、レントゲンで確認してもらうことをお勧めします。
また、詰め物が非常に鋭利な形状をしていたり、大きな入れ歯やブリッジなどを飲み込んだりした場合は、消化管(食道、胃、腸)の粘膜を傷つけてしまう恐れがゼロではありません。飲み込んだ後にお腹が痛くなったり、血便が出たりといった異常があれば、すぐに医療機関を受診してください。
基本的には「便として出るのを待つ」で大丈夫ですが、飲み込んでしまった旨を歯科医師に伝えることも忘れないでくださいね。「飲み込んでしまったので、新しいものを作る必要があります」とスムーズに伝えれば、治療の段取りも早くなります。
患部から臭いがする場合の原因
詰め物が取れた直後、その詰め物自体や、詰め物が取れた穴から「ドブのような臭い」や「腐った卵のような臭い」がして、驚いたことはありませんか?これは単なる口臭ではなく、お口の中で起きていたトラブルを知らせる重要なサインです。
この強烈な臭いの正体は、主に「嫌気性菌(けんきせいきん)」という細菌が作り出すガスです。詰め物が劣化して歯との間に隙間ができると、そこへ食べカスや唾液が入り込みます。酸素が少ないこの隙間は、嫌気性菌にとって絶好の隠れ家となります。彼らは入り込んだタンパク質を分解し、メチルメルカプタンや硫化水素といった「揮発性硫黄化合物(VSC)」を発生させます。これが、あの鼻をつくような悪臭の原因なのです。
また、詰め物の下で虫歯が進行し、神経が死んで腐敗している場合(歯髄壊疽・しずいえそ)も、独特の強い腐敗臭(壊疽臭)がします。つまり、臭いがするということは、詰め物の内部で細菌感染が起きていた、あるいは現在進行形で起きているという確実な証拠なのです。これを放置すれば、口臭が周囲に迷惑をかけるレベルになるだけでなく、感染が顎の骨にまで広がる恐れもあります。消臭スプレーなどで誤魔化すのではなく、根本的な原因である「感染源」を除去する治療が必要です。
受診までの食事や歯磨きの注意点
歯科医院の予約が取れるまでの数日間、どのように過ごせば良いのかも悩みどころですよね。ここで大切なのは、「患部を守る」ことと「清潔を保つ」ことのバランスです。
まず食事についてですが、「詰め物が取れた側の歯では絶対に噛まない」ように意識してください。詰め物を失った歯は、構造的に非常に脆くなっています。例えるなら、中身がくり抜かれた切り株のような状態です。ここに硬い食べ物が当たると、くさびを打ち込むような力がかかり、歯が縦に真っ二つに割れてしまう「歯根破折(しこんはせつ)」を引き起こすリスクが激増します。歯根破折を起こすと、現代の歯科医療でもその歯を残すことは難しく、抜歯になるケースがほとんどです。治療が終わるまでは、反対側の歯で噛むか、うどんやおかゆなどの柔らかい食事を中心にしてください。
次に歯磨きです。患部に食べカスが詰まると虫歯が進行するため、清掃は必須です。しかし、ゴシゴシと強く磨くのはNGです。象牙質が露出している場合、ブラシの刺激で削れてしまったり、知覚過敏が悪化したりします。柔らかめの歯ブラシを使い、撫でるように優しく汚れをかき出してください。もし穴が深くてブラシが届かない場合は、ぬるま湯で強めにうがいをするのも効果的です。冷たい水はしみる原因になるので、人肌程度のぬるま湯を使うのがポイントです。
歯の詰め物が取れた場合の治療費用と期間

「歯医者に行かなきゃいけないのは分かっているけど、今月は出費が重なっていて…」という金銭的な不安も、受診をためらう大きな要因の一つですよね。また、どれくらい通院が必要なのかも見通しが立たないと不安です。ここでは、2024年以降の最新の状況も踏まえ、治療費用の相場や選択肢について具体的にお話しします。
治療にかかる値段と保険の適用
まず朗報なのは、もし運良く「虫歯もなく、詰め物も変形しておらず、ただセメントが劣化して取れただけ」というケースであれば、治療費は非常に安く済むということです。この場合、診察とクリーニング、そして再装着(Re-cementation)を行うだけで、保険適用(3割負担)なら数千円程度で完了することがほとんどです。通院回数も1回、多くても経過観察を含めて2回程度で済みます。これこそが、私が「取れた詰め物を捨てずに持っていってください」と強くお勧めする理由です。
しかし、詰め物の下で虫歯になっていたり、詰め物自体が破損していたりする場合は、「再製作」が必要になります。この場合、保険診療で作るか、自費診療で作るかによって費用は大きく変わります。
| 種類 | 特徴 | 費用目安(3割負担) |
|---|---|---|
| 銀歯(金銀パラジウム合金) | 強度はあるが見た目が金属色。金属アレルギーのリスクあり。 | 約3,000円〜5,000円 |
| CR(高機能修復材) | セラミックフィラーを8割近く配合し、ブリッジ治療も可能なほど強靭。歯と強固に接着するため健全な歯質を削る量を最小限(MI)に抑えられ、境目から虫歯になりにくい。現在の虫歯治療の主流。 | 約1,500円〜3,000円 |
| CAD/CAM冠 | ハイブリッドレジンの被せ物。白いが強度はセラミックに劣る。 | 約6,000円〜9,000円 |
保険診療のメリットはなんといっても費用の安さです。しかし、銀歯は見た目の問題だけでなく、経年劣化でセメントが溶け出しやすく、再び虫歯(二次カリエス)になるリスクが比較的高いというデメリットも理解しておく必要があります。
セラミック等の費用の相場を知る
「もう二度と虫歯にしたくない」「銀歯を入れて目立つのは嫌だ」と考える方には、保険適用外の自費診療という選択肢があります。特に人気なのがセラミックやジルコニア、そしてゴールド(金合金)です。
セラミック(e.maxなど)やジルコニアは、天然の歯のような透明感と白さを再現できるだけでなく、表面がツルツルしているためプラーク(汚れ)がつきにくいという大きなメリットがあります。また、歯と化学的に強固に接着するため、隙間から細菌が侵入するリスクを大幅に下げることができます。これらは、単に「見た目を良くする」だけでなく、「歯を守るための投資」としての側面が強いと言えます。
自費診療の費用相場(目安)
- セラミックインレー(詰め物):約55,000円〜88,000円
- ジルコニアクラウン(被せ物):約88,000円〜132,000円
- ゴールドインレー(金合金):約66,000円〜99,000円
※価格は医院や地域、使用する材料のグレードによって異なります。また、昨今の材料費高騰により変動する可能性があります。
初期費用はかかりますが、再治療のリスクが減れば、長い目で見たときのトータルコストや、歯を失うリスクを抑えることができます。カウンセリングでしっかりと説明を受け、ご自身の価値観に合ったものを選ぶことが大切です。
妊娠中でも歯科治療は可能か
妊娠中に詰め物が取れてしまった場合、「お腹の赤ちゃんに影響があるのではないか」と心配になり、受診をためらってしまう妊婦さんは少なくありません。しかし、結論から言えば、妊娠中でも歯科治療は可能であり、むしろ推奨されます。
特に「妊娠中期(安定期:16週〜27週頃)」であれば、通常の歯科治療のほとんどを問題なく受けることができます。局所麻酔についても、歯科で使用する麻酔薬は局所的なもので、使用量もごくわずかです。胎盤を通過する可能性はゼロではありませんが、通常の使用量で胎児に悪影響が出たという報告はなく、安全に使用できるとされています。
逆に、詰め物が取れたまま放置して痛みが激しくなり、食事が摂れなくなったり、ストレスを感じたりすることの方が、母体や胎児にとってマイナスになります。また、妊娠中はホルモンバランスの変化で歯周病が悪化しやすく、それが早産や低体重児出産のリスクを高めるというデータもあります。受診の際は必ず母子手帳を持参し、受付や医師に妊娠中であること(週数や体調)を伝えてくださいね。スタッフも配慮して、楽な体勢で治療が受けられるように調整してくれます。
応急処置としてできることの限界
忙しくてどうしても数日間は歯医者に行けない場合、「家でできる応急処置はないか」と探される方もいるでしょう。しかし、患者さん自身ができることは非常に限られています。
ご自身でできる「正しい応急処置」は以下の2点に尽きます。
- 脱離した詰め物の保護:捨てずに、ティッシュではなく「小さなケース」や「チャック付きの袋」に入れて保管する。ティッシュだとゴミと間違えて捨ててしまったり、圧力がかかって変形したりするからです。
- 口腔内の清掃:前述の通り、優しく歯磨きをし、うがい薬などで口の中を清潔に保つこと。
市販の「仮の詰め物材」などもドラッグストアで見かけることがありますが、素人が使うと、虫歯菌を閉じ込めてしまったり、高さが合わずに噛み合わせを悪化させたりするリスクがあるため、私としてはあまりお勧めしません。何もしない(触らない)で、清潔に保つことこそが、最大の防御であり、最良の応急処置なのです。
歯の詰め物が取れたら迷わず受診を

ここまで、詰め物が取れた際のリスクや対応についてお話ししてきました。繰り返しになりますが、詰め物が取れた歯は、鎧を失った兵士のように無防備で、非常に弱い状態です。「痛みがないから」「忙しいから」と後回しにしている時間は、歯にとっては命取りになりかねません。
早期に受診すれば、簡単な処置と数千円の費用で済むことが、放置した結果、神経を抜くことになったり、高額な被せ物が必要になったり、最悪の場合は抜歯に至ってインプラントや入れ歯が必要になったりと、身体的にも経済的にも大きな負担となって返ってきます。「取れたらすぐに予約する」。このシンプルな行動こそが、あなたの大切な歯を守り、将来的な出費を抑えるための最も賢い選択です。
もし手元に取れた詰め物があるなら、それを宝物のように大切にケースに入れて、今すぐ最寄りの信頼できる歯科医院に電話をかけてみてください。その一本の電話が、10年後のあなたの笑顔を守ることにつながるはずです。
※本記事は一般的な歯科知識に基づく情報提供を目的としており、医学的な診断を代替するものではありません。個々の症例によって適切な治療法は異なりますので、必ず歯科医師の診断を受けてください。

